
2026-06-01
先日、30代男性のお客様の買い物同行をお受けいたしました。
最初のお問い合わせ時、
「プライベートやデートで困らない春夏の私服を、2セットほど揃えたい」
というご相談でした。
ご希望は、上下コーディネート、靴、アクセサリー、サングラスなど。
これまで、ご自身で私服を買う経験はあまりなかったとのこと。
お仕事では白シャツやグレースラックスなど、比較的きれいめな服装をされている一方で、休日はデニムとシャツが中心。
今まで私服がそれほど必要ではなかったけれど、これからは外に出る機会を増やしていきたい。
そのために、服装の軸を整えたい。
アンケートには、このような言葉がありました。
「コーデ相談しながら決めたい」
「今まで服が不要でしたが、色々出かけなければなと思い、服装の軸を決めるのに申し込みました」
「ここをスタート地点にできればと考えています」
この言葉を拝見したとき、今回の買い物は、単なる春夏服の買い足しではなく、装いを整えるひとつの節目になると感じました。
これから外に出ていくための服。
人と会うための服。
自分の印象を整えるための服。
そして、これからの自分の基準をつくるための買い物。
丁寧にご案内をして、これからの装い方について良いきっかけとなるような時間にすべきだと考えました。
お会いする前のリサーチ段階では、LINEやメールでのやり取りをもとに、まずは比較的使いやすい価格帯から見ていき、必要に応じて少しずつ価格帯を上げながら、フィーリングが合うところへ着地する流れを想定しました。
そして、候補として考えていたのは、
上記は、メンズファッションの中で日常的に取り入れやすいブランドです。
春夏のお出かけ服を2セットほど整えるなら、このあたりのブランドで形になります。
実際、リサーチをすすめ、カジュアル寄りのセットアップや、きれいめなスラックス、半袖シャツ、ニットポロなどをご提案していきました。
また、仕事でも使えそうなセットアップを土台にして、休日はスラックスにTシャツや半袖シャツ、スニーカーを合わせることで、仕事と休日を完全に分けず、ミニマルに整えられる。
このような方向性をご提案しましたが、やり取りを重ねるうちに、少しずつ印象が変わっていきました。
お客様は最初に、「コスパよく進めたい」とおっしゃっていました。
この言葉だけをそのまま受け取ると、なるべく手短に、安く済ませたい、そのような印象に受け取ることもできますが、アンケートや事前のやり取りの中には、次のような言葉もありました。
「長く使えるもの、価値あるものではないので、捨てて総入れ替えを検討しています」
この一文から、単に安さを求めているというより、納得されたい、失敗したくないという思いを強く感じました。
安いものをたくさん買いたいのではない。
むやみに増やしたいのでもない。
自分にとって価値のあるものを、きちんと納得して選びたい。
この方にとっての「コスパ」とは、単に価格が安いことではなく、
長く使えること。
心地よく着られること。
自分にとって価値があると感じられること。
買ったあとに後悔しないこと。
つまり、自分にとって価値があるものを、納得して選べることだったのだと思います。
ここを安易に読み違えると、提案もずれてしまいます。
今回の買い物では、まさにそこが大切でした。
当日の対話を通じて、さらに見えてきたことがあります。
この方は、決して「何でもいい」わけではない。
むしろ、ご自身の中にある軸は、しっかりお持ちである。
ただ、それをファッションの言葉として、まだ整理しきれていなかったということだと思います。
納得するまでは簡単には決めない。
けれど、これは良いと腹落ちしたら、きちんと行動できる。
経験値を増やしたい。
30代という節目で、自分を変えていきたい。
そういう背景が、会話の中から少しずつ見え、これは、ただ「使いやすい服」を揃えるだけでは足りないと感じました。
この方には、お好みやこだわりに合い、心身ともにフィットするもの。
着たときに心が落ち着き、集中できるもの。
そして、長く愛用できる良質なもの。
そういう方向でご提案したほうがよいと判断しました。
最初は、中価格帯を中心にいくつかの店舗を回る予定でした。
実際に3店舗ほど見て、試着もしていただきました。
その中で、素材感、シルエット、着たときの表情、反応を見ながら、対話を重ねていきました。
すると、もっと良質なものもお見せしたほうがよいのではないかと思うようになりました。
途中、ビューティーアンドユースを見る際に、トゥモローランドのお店の前を通りました。
そのときに、
「こういったお店も素敵ですよね」
とお声がけしたところ、
「そうですね。あ、素敵ですね」
と反応がありました。
この時の反応を見て、『あとでトゥモローランドも見てみよう…』と決めたのです。
結果的に、そこで今回必要なものがほぼ揃いました。
シャツ。
パンツ2本。
ニット。
Tシャツ。
サングラス。
靴。
単品を買い集めるのではなく、今後の装いの土台になるワードローブを、ひとつの流れで整えました。
今回のお買い物では、たくさんのものを試着していただきました。
ただ服を見るだけではなく、
シャツとパンツを合わせる。
靴を合わせる。
ベルトを入れる。
サングラスをかける。
全身で見てみる。
そうやって、コーディネートを何度もシミュレーションしました。
すると、ただ商品として良いかどうかではなく、
どこに着ていく服なのか。
どんな自分に見えるのか。
この靴を合わせたらどう変わるのか。
このパンツなら、今後どう着回せるのか。
そうしたイメージが、少しずつ具体的になっていきます。
その積み重ねの中で、お客様ご自身も、
「これは買ったほうがいいな」
と決心されたように感じました。
結果として、当初想定していたご予算よりも大きなお買い物にはなりました。
けれど、今後の装いの土台がしっかり作られ、ここを基準にして、ご自身で必要なものを少しずつ買い足していけるワードローブが完成しました。
何より、着たときのバランスや見栄え、どこに着ていく服なのかというイメージまで見えたことで、ワクワクしながらも安心して、納得できるお買い物になったのではないかと思います。
買い物同行というと、似合う服を探す時間だと思われるかもしれません。
もちろん、色、形、素材、サイズ感、着たときのバランスは丁寧に見ます。
ですが、私が本当に見ているのは、服そのものだけではありません。
その方が、何に安心するのか。
何に心が動くのか。
どこに価値を感じるのか。
どの価格帯なら、納得して手に取れるのか。
どこまでなら挑戦できて、どこから先は無理をしているように見えるのか。
そうしたことを、会話や試着の反応から見ています。
今回のお客様も、最初の言葉だけを拾えば、
「コスパよく、春夏服を2セット揃えたい」
というご希望でした。
けれど、やり取りやアンケート、当日の対話を重ねるうちに、
この方にとってのコスパは、単に安く済ませることではないと感じました。
本当に求めていたのは、
失敗しないこと。
長く使えること。
自分にとって価値があると納得できること。
そして、これからの自分の基準になる服を持つこと。
そのため、これからのお客様の装いを支える土台になる服であれば、当初想定していた価格帯だけでまとめるのではなく、より質の良いものも見ていただいたほうがよいと判断しました。
こちらが選択肢を狭めすぎず、まずはきちんとお見せすること。
そのうえで、最後に決めるのはお客様ご自身です。
こちら側が勝手に「このくらいでいい」と可能性を狭めてしまっては、本当の納得にはつながりません。
服を選ぶ仕事ではありますが、
本質的には、その方の“納得の軸”を見つけ、装いに翻訳する仕事なのだと思っています。
そこが見えてくると、買い物はただの消費ではなく、自分のこれからを整える時間になります。
買い物同行とは、似合う服を探す時間であると同時に、
その人がこれからどう装って生きていくかの基準を、一緒に見つける時間でもあると思っています。
今回、トゥモローランドでしっかり土台を作りましたが、すべてを毎回トゥモローランドで揃える必要はありません。
大切なのは、軸になるアイテムをどのように揃えるかです。
お客様ご自身も、同行後にこのようにおっしゃってくださいました。
「全てをトゥモローランドで揃えるのは予算的に難しいですが、それぞれの季節ベースをトゥモローランドで数点統一して、抜けるところはユニクロ等で揃えて、バリエーションを増やしていければと考えています」
まさに、この考え方がとても大切です。
軸になるものは、少し良いものを選ぶ。
消耗品や抜けを作るものは、ユニクロなども上手に活用する。
高いものと手頃なものを組み合わせながら、全体の印象を整えていく。
すべてを高価なもので揃えることが、おしゃれなのではありません。
どこにお金をかけるか。
どこは抑えてよいか。
何を基準に選ぶか。
自分なりの軸が見えてくると、買い物はずっとしやすくなり、楽しさも増していきます。
同行後、お客様からこのようなご感想をいただきました。
「本日は色々と教えて頂き有り難う御座いました。
時間オーバーしてしまいましたが、トコトンお付き合い頂き、自分のファッションの基盤作り、店舗の見方、合わせ方等、良い経験となりました。全てをトゥモローランドで揃えるのは予算的に難しいですが、それぞれの季節ベースをトゥモローランドで数点統一して、抜けるところはユニクロ等で揃えて、バリエーションを増やしていければと考えています。
本当に有難う御座いました!」
このご感想を拝見し、今回の買い物同行でお伝えしたかったことが、しっかり届いていたのだと感じました。
服を買うだけではなく、
店舗の見方。
合わせ方。
お金のかけ方。
今後の増やし方。
これらを通して、装いの基盤を作る時間という経験にもなったことと思います。
服を整えることは、単に見た目を変えることではありません。
外に出る準備をすること。
人と会う自信をつくること。
自分の印象を、自分で扱えるようになること。
そして、これからの自分に必要な基準を持つこと。
買い物同行は、服を選ぶ時間であると同時に、
その人の判断軸を整える時間でもあります。
今回のお客様にとって、このお買い物が、これから外へ出ていくためのスタート地点になっていたら嬉しく思います。
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